今年は、IBM i にとって出荷開始30周年という節目の年を迎えます。この度、日本アイ・ビー・エム株式会社 コグニティブシステム事業部(旧パワーシステムズ製品事業部)事業部長に着任された黒川亮氏、ならびにコグニティブシステム事業部内に新設されたIBM i 統括部を率いる久野朗氏に、IBM i を長らくお使いのお客様へのメッセージをいただきました。
IBM i の将来を約束するロードマップ
――IBM i の30年間の蓄積と変化をふまえ、IBM i ユーザーの皆様に今一番にお伝えしたいことは何でしょうか。
黒川
「System/3時代からのRPGアプリケーションを資産として使い続けていただく」という思想がAS/400に引き継がれ、それがIBM i にまで至ります。AS/400が発表されたのが1988年ですので30周年としていますが、原点はSystem/3が登場した約50年前となります。この間、テクノロジーは大きく変わりましたが、資産は継承され、30年以上前のアプリケーションが今でも動きます。しかも、性能は最新のPOWER9では13.7万倍に向上しました。IBM Zで培われた仮想化技術や信頼性も、IBM i が稼動するPower Systemsに実装されています。今回はPOWER9という新しいプロセッサーを発表したわけですが、さらにその先のPOWER10、その先の先の技術まで、IBM i を安心して継続使用していただけるロードマップがあるということを改めてお伝えしたいと思います。また、安心してお使いいただくための拠り所として、私の着任と同時にIBM i 統括部を立ち上げました。これはIBM i が、IBMにとって非常に重要な戦略部分であることの決意表明でもあります。
――IBM i は、最新のIT環境の中でどのようにビジネスを支えるのでしょうか。
黒川
今日、AIを考えずにはビジネスを進められません。基幹系システムが搭載されたIBM i とAIをAPIで接続し、リアルタイムにAIをお使いいただけます。重要なのは、AIで使用するデータの鮮度が、ビジネスの差別化要素になることです。IBM i は、AIと簡単に接続できるので、リアルタイムに価値の高い分析結果を獲得できます。IBM i とAIや関連アプリケーションを接続することを「水平統合」と呼んでいます。IBM i は、垂直、水平の両方向を統合できる、将来のビジネスを支える基幹システムなのです。
――IBM iはどのような戦略で展開するのですか。
久野
IBM i の戦略は3つあります。まず、IBM i の一貫したアーキテクチャーでお客様の未来をサポートすること。次に、AI時代のビジネスを実現する新しいテクノロジーとの連携をサポートすること。そして、アプリケーション開発とインフラ運用の両面でお客様を支援するエコシステムを強化することです。
お客様の未来をサポートすることは、ロードマップでお約束しています。すでに、次世代のPOWER10を開発中です。その先も3000億円を投資して開発しています。IBM i の最新OSバーションは7.3ですが、ロードマップで2世代先まで明示しています。新バージョンの発表毎に、未来へロードマップを延伸します。これからの30年も安心してご利用いただけます。
AI時代の基幹アプリケーションに対応
――資産を長く継承されたお客様が、進化を続けるPOWERチップのCPUパワーをさらに有効活用するにはどのような進め方があるのでしょうか。
久野
IBM i 7.3に移行いただくことで、RPGやCOBOLプログラムから、WatsonやThe Weather Companyと連動するためのAPIが使えるようになります。また、ILE RPGの利用によりプログラムをモジュール化して、開発の生産性を高められます。開発環境もSEUからRational Developer for iの環境に移行していただくと、生産性の向上だけでなく、Javaや他の言語プラットフォームのプログラマーの方にも、IBM i での開発に参加いただける環境が構築できます。これらの機能で新しいアプリケーションを追加してCPUを有効活用いただければと存じます。
CPUパワーの向上は、リアルタイム処理にも活用できます。従来、データ取得や分析のタイミングは限られてきました。現在は、販売や出荷などの様々なタイミングで情報を得られます。IoTやモバイル、ウェブカメラなどからも情報が入ります。これらの蓄積が、お客様の宝物です。そのお宝を分析する、それも従来のバッチ型の分析だけではなく、AIと連動させたリアルタイムの分析により、リアルタイム・オペレーションにつなげるようなことも実現できます。Googleで検索できるデータでは、差別化できません。企業内のデータが差別化要因です。内外のデータを合わせてリアルタイム検索できることが、企業ごとに異なる付加価値を生む源泉です。
こうして集まったデータにより、データベースのデータ項目も多く、レコード数も増えます。縦横両面で増えたデータを処理するには、強大なCPUパワーのみならず広大なメモリ、そして高速な内蔵SSDが重要になってきます。またCPUだけではトータルスループットが稼げないので、メモリバスやIOバスをより太くしてトータルでパフォーマンスをよくする実装もなされています。それからPOWER9搭載機では、インテルサーバーが、まだ実現していないPCI Gen4も導入していますので、時代の求める要件に対してCPUパワーの面でも、I/Oの能力面でも十分に対応しております。
――ふたつめの戦略は、AI時代の基幹アプリケーションを実現するために、新しいテクノロジーとの連携、しかも、単なる連携ではなくて、簡単に連携する能力を今後もサポートしていくということですが、そうは言っても、AI連携なんてまだまだ先の話」というような感想も聞かれますが。
久野
実は、もう始まっています。基幹データベースとチャットボットの連携例が、いくつか出てきています。最初は基幹システムと関係ない単独の使い方でしたが、連動する使い方に発展してきました。例えば、「どこの店に、この商品の在庫はいくつあるのか」といった問合せには、基幹システム側の店舗マスターや在庫マスターへのアクセスが必要となります。その際、チャットボットを動かしているIBM CloudからIBM i のデータベースへ直接アクセスするAPIも用意されていますので、簡単に連動できるのです。
この他にも、WindowsやLinux上のアプリケーションとの連携においても、ftpでデータを渡すのではなく、JDBCなどで瞬時に連動させることができます。社外の様々なアプリケーションと水平にリアルタイム連動し、そこからさらにAIともリアルタイム連動する。これが「IBM i の水平統合」です。
大切なのはIBM i は極めて安定したプラットフォームである、ということです。アプリケーションがうまく動かないとき、IBM i のアプリケーションであれば、調査やデバッグ対象はその部分だけです。ところが、WindowsやLinux環境ですと、アプリケーションプログラムばかりか、OSやミドルウェアの不具合までも調べる必要があり、所要時間が大きく異なります。AIとリアルタイムに連動するアプリケーションを、ローコスト、短期間、低リスクで実現できるプラットフォームがIBM i なのです。
――水平統合の例をうかがえますか。
久野
九州三菱自動車販売様は、「おもてなし変革」を実現しました。カーディーラーにお越しのお客様のナンバープレートをWebカメラで読み取り画像認識を行い、IBM i 上の顧客データベースを参照して、必要な情報をモバイルデバイスなどで担当者に届けます。これにより、担当者は、車のドアが開く前にお客様のことが頭に入っています。このプログラムを書かれたのは、Node.jsに強い方でした。RPGのプログラマーでなくても、得意な言語でIBM i 上でアプリケーションが書けます。顧客接点のようなニーズの変化が激しい用途には、手軽に使える言語が良いでしょう。
RPG技術者を確保し将来に備えつつも、他言語での開発も可能
――3番目の戦略である「エコシステム」の強化ですが、昨今市場ではRPG技術者の確保が話題になっています。若手がNode.jsに強ければ、そちらで開発可能というのは、IBM i の大きな強みですね。
久野
そうですね。一方、普遍的な基幹アプリケーションの開発には、RPGやCOBOLをお勧めします。技術の世代交代の度に多大なテスト負荷がかかっては、投資が無駄になります。「不易と流行」というように、永くサービスを続けるものなのか、その時々の短期間利用のアプリなのかによって使い分けいただくのがよいと思います。
これまで、多くのお客様にモバイルアプリケーションを導入いただいていますが、WindowsやLinuxそしてクラウド環境ではなくIBM i で実現されたのには、いくつか理由があります。まず、既存資産の活用による投資負担とIT要員の負荷軽減です。次に、現場からの改善要求に即応できること。そしてセキュリティーです。インターネット経由の稼働でも、ハッキングに強いIBM i のセキュリティーには大きな安心感を持っていただけます。
――お客様からよくうかがうのが、RPG技術者問題です。技術者不足への対応を教えて下さい。
黒川
まず、RPGのアプリケーション資産を他のプラットフォームに移行することについて、IBMの考えをお話ししましょう。日本のIT投資の大半は、運用管理とテストに費やされています。IBM i はデータベースやネットワーク、ワークロード管理など、すべてをオールインワンで提供する事により運用コストを下げました。残るはテストのコストです。WindowsでもLinuxでも、OSにはバージョンアップやサポート終了があります。サポート終了後もアプリケーションが稼働するなら、お客様への負荷は大きくないでしょう。ただ現実にはOSの更新後にアプリケーションが動く可能性が非常に低いため綿密なテストが必要となり、ここに多額の投資を要しています。
IBM i が垂直統合の中で持っているCOBOLやRPG、Cなど、将来への継承が保証されているプログラミング言語で開発すれば、基本的にリコンパイルは不要です。過去のロードモジュールとデータベースは、そのまま動作します。テストが非常に簡便になり、時間も短縮され、コストが下がります。IBM i のRPGをご利用のお客様は、運用管理とテストへの投資が不要になり、その分をイノベーションの投資にまわすことができるのです。AIで新たな業務プロセスを実現する、カスタマイズを実現する、新たなアイデアを実現する、それらに投資できます。これがIBM i の良さです。
今回、3番目の戦略として、エコシステムによるお客様支援を明確にし、3つの施策も用意しました。まず、IBM自身が責任を持って、アプリケーションの開発も運用も行います。IBMのサービス部門が、全世界的に使用しているIBMマイグレーションメソドロジーを導入し、RPGの開発およびアプリケーションメンテナンスを担当します。次に、新規技術者増員のため、人材サービスの大手2社のパーソルテクノロジースタッフ株式会社とマンパワーグループ株式会社と提携しました。これからの3年間で、千人規模でIBM i 技術者の増員が必要ですので、技術者を市場に供給していただきます。最後は、リモートで開発していただける会社を募り、リモートアプリケーション開発やリモート運用サービスを提供いただける環境を整えました。これにより、派遣のコスト負担が難しい小規模、ワンタイムな開発から、数十人単位を投入する大規模なプロジェクトまで対応させていただきます。
――確実な要員確保ができるとのこと、心強いです。ところでハードウェアの置換サイクルは、今後短くなってゆくのでしょうか。
黒川
イノベーションのために、新たな開発が必要です。永くお使いいただくのはありがたいのですが、古いプラットフォームを保守終了させていただき、新規開発に人員を集中させたいと考えています。また、セキュリティー含めて、新しいテクノロジープラットフォームがより安全なのは確かです。安全とイノベーション創造の両面のサポートができる新しいプラットフォームであるPOWER8やPOWER9搭載機へのリプレースをお勧めします。
30年前に、これだけのモバイル端末がつながることを想定していたでしょうか。これだけWindowsのセキュリティーアップデートにワークロードを掛けなければならないことを想像できたでしょうか。社会はますます変化を続けます。私どもは、常にお客様のイノベーションを低コスト、迅速、かつ安全に実現いただけるIBM i プラットフォームを今後も提供してまいります。ご期待ください。
――垂直統合のプラットフォームを水平統合でより世界を広げ、お客様が安心して次の30年間使えるシステムへの万全の体制をうかがいました。ありがとうございました。