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2024.06.26
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IBMのDouglas GibbsとSteve Willが語るIBM i の現在と未来(第2回)

IBMのDouglas GibbsとSteve Willが語るIBM i の現在と未来(第2回)

2024年5月に開催されたIBM i の世界最大級のイベント「COMMON POWERUp 2024」において、IBM i 製品責任者のDouglas Gibbs氏とIBM i チーフ・アーキテクトであるSteve Will氏にインタビューを行いました。

※併せて読みたい:「COMMON POWERUp 2024 参加レポート」

IBM Powerのビジネスが好調である背景、新モデルIBM Power S1012にかける思い、そしてIBM i のAI戦略など、両氏からたっぷり伺ったお話を3回に分けてお届けいたします。
第2回は、チーフ・アーキテクトのSteve Willが語るIBM i のAI戦略をご覧ください。
(※インタビュー第1回はこちらから)

インタビューに答えるテンガロンハット姿のDouglas Gibbs氏とSteve Will氏


IBM i とAIOpsの取り組みについて

iWorld事務局(以降は「iWorld」と記述):
ソフトウェアの話題に移ります。今回のPOWERUpのセッションで一番ホットな話題は「AI」という印象を受けました。

Steveさんはオープニング・セッションで、IBM i へのAIの適応には3つの分野があると仰っていました。1つ目はIBM i上に蓄積されたデータの分析、2つ目はシステム・オペレーションのAIOps、そして3つ目は、開発者向けのコード生成ですよね。

1つ目のデータ分析は多くのお客様が取り組みを開始されていると思います。では、2つ目のシステム・オペレーションについて、何か新しい製品がでてくるのでしょうか?それとも、既に多くのシステム・ツールが存在しているIBM i に、AIOpsが組み込まれるのでしょうか?

Steve Will(以降は「Steve」と記述):
AIを活用するシステム・オペレーションのために私たちが最初に行う可能性が高いのは、システム・オペレーション関連のデータをLinux上で稼働するAIに送信するためのプロトコルを、IBM iに統合することです。

Linux上で稼働する、AIを使ったシステム・オペレーション・ツールはすでに開発されており、現在のところ、Linux仮想マシンを管理できるように整備されています。

私たちは、メッセージ・キューに送られるメッセージや、プログラムで発生する例外処理など、IBM iに関連するデータを送信するために必要なインフラを構築し、IBM iの管理方法や自動修正方法をAIが学習できるようにするつもりです。

また、IBM i自身に組み込むことができるAIについて注視していますが、具体的に発表できるものはまだありません。

iWorld:
つまり、まずはLinux上のAIにIBM iの操作について学習させ、そこからIBM iを管理させるということですね。

Steve:
その理由を説明しましょう。

既に様々な業界で、オフィス向けAIへの投資が行われています。私たちの大口顧客の多くは、自社内の全プラットフォームを管理するために、AIの導入に取り組んでいます。このようなAIOpsのワークロードは、エラーがLinux上でどのように見えるか、ネットワーク情報がLinux上でどのように見えるかは理解しています。

ところが、IBM iへの対応は、Linuxと同じ手法が使えません。容易に想像できると思いますが、「Linuxではこうするが、IBM iではこうする」となってしまうからです。

とはいえ、Linux上のAIOpsは、システム・オペレーションにおける一般的なことは学習済みです。つまり、IBM iの管理における流儀や言語を教えるだけで済むと予想できますので、たぶん、さほど苦労することはないでしょう。

IBM i上でAIOpsを実現するためにゼロからすべてをトレーニングすることを考えれば、類似性が活用できる稼働中のAIをベースにして構築することが、システム・オペレーションのためのAIを早期に市場に投入するための好手なのです。

もちろん、将来的には、IBM iだけのために同じ価値を享受したいと考える規模が小さなお客様向けに、シンプルなアドオンとしてAIOpsをパッケージ化することも考えられます。規模が大きなお客様のためにトレーニングをしておけば、規模が小さなお客様のためのパッケージの場合は、それほど、追加料金はかからないで済むと思われます。

「コード・アシスタント」機能のブルー・プリントと、大規模言語モデル(LLM)のトレーニング

iWorld:
3つ目は、多くの人が興味を持っている分野だと思います。あなたがカンファレンスで説明した「開発者向けのコード生成」について、日本の読者に説明していただけますか?

Steve:
まず、その3つ目のAIを「コード・アシスト」とでも呼びましょうか。

Steve Will氏

IBMはメインフレームのIBM Z向けに、watsonx Code Assistant for Zを発表しました。これは、IBM Z用のCOBOLをIBM Z用のJavaに変換するものです。

一方、私たちは、RPGを他の言語に変換することが、IBM iユーザーの役に立つとは考えていません。私たちが「コード・アシスト」を作るのであれば、RPGを知らない人が最新のRPGでプログラムやアプリケーションを作成できるようなアシスタントを作りたいと思っています。

現在、市場に存在するコード・アシスタントは、CやJavaやNode.jsと比較すると、RPGは勉強不足でしょう。そこで、私たちは、大量のRPGで訓練されたモデル(Large Language Model:LLM)を作成するために、サンプル・コードを提供してくれるコミュニティーを募っています。このようなコミュニティーとの協業によって作成されたモデルであれば、最新のRPGを用いたプログラミングの際に非常に役立つものになると信じています。

「コード・アシスト」が実現すれば、プログラマーは必要となる機能を普通の言葉で記述するだけで済みます。あるいは、「コード・アシスト」が既存のコードを分析して、そのコードが何をしているのかを説明することで、プログラマーはどのようにコードをモダナイズするか、あるいは、コードを分割してサービスを作成するべきか、が理解できるようになります。

そして、3つ目の機能として、テスト・プログラムを生成してコードの一部をテストできるモデルにしたいとも考えています。 すなわち、書いた RPGが高品質であることを確認するために、「コード・アシスト」が生成したテスト・ケースでテストが行えるようにしたいと考えています。

コードを見て自動的にテスト・ケースを書いてくれるツールがあれば、コードを更新する都度、自動的にテストが実行できます。最終的には、世界中の全てのRPG開発者が作るコードの品質を向上させられるでしょう。


最終回のインタビュー記事では、Steve WillがLLMのコード・アシスタントに取り組もうとしている理由にもつながるVSCodeとCode for IBM i(Code4i)について語られます。
最終回の公開を確実に知りたい方は、メールマガジンの登録をご検討ください。

iWorld:
AIのトレーニングのために、RPGのプログラムを全世界から募集するというのは面白いアイデアですね。

日本には「PACKシリーズ」や「iSeries Site」と総称される長い歴史を誇るERPソリューション群があり、そのほとんどは古いコードで記述された何千行もある巨大なプログラムです。この「PACKシリーズ」のような巨大なプログラムも役に立つのでしょうか?

Steve:
理由は後で説明しますが、私たちにコードを提供していただける場合は、私たちはコードの利用許諾と、誰もが見られるオープンな場所にコードを置くことの許諾を得る必要があります。したがって、現在、私たちは「オープンな場所に置いても良いコードをお持ちの方はいらっしゃいませんか?」とお聞きしています。寄付したいけれども、他の人に見せたくないコードがある、という場合は、非公開にしたいコードを私たちが利用することに、法的な問題はないかを調べる必要があるからです。

では、お尋ねのケースに戻りましょう。大規模なプログラムがある場合、まず、プログラムで用いられた古いコードのすべてを認識できるようにモデルを訓練します。そして、顧客やプログラマーが古いコードを新しいコードに変更する方法を見つけられるようにしたいと思います。ですから、最初は古いコードを提供いただきたいのです。最も望ましいケースは、古いコードとモダナイズした新しいコードの両方を提供していただくことです。新旧両方のコードがあれば、モデルの学習速度は当然ながら早くなります。

RPGの教育に携わっているIBM Champion(事務局注:IBMが認定する各分野のインフルエンサー)に連絡を取ったのはそのためです。彼らは、「古いものはこうで、新しいものはこうだ」というサンプルをたくさん持っており、モデルの訓練にとって非常に有益です。日本にもRPGのエキスパート達が大勢いますよね。もし、日本のRPGエキスパートたちが、「古いものはこうで、新しいものはこうだ」というサンプルを持っているならば、私たちは大いに活用できることになります。

Douglas Gibbs:
私は4月に日本に行き、日本IBMの原さんや久野さんと一緒に日本のRPGチャンピオンから話を伺いました。ヨーロッパや北米のチャンピオンと同様、日本のRPGチャンピオンは、このプログラムに非常に興味を持ってくださっています。

iWorld:
確かにARCADのように、RPGⅢで開発した古いプログラムをフリーフォームRPGに変換するソリューションは存在します。ただ、モジュール化したり、コードを細かく切り分けられるソリューションは存在しないのではないでしょうか?

もし、AIによってモジュール化やコードの切り分けができるようになれば素晴らしいですね。

Steve:
そうですね。だからこそ、最初は、プログラムやプログラミング言語を、モデルに教えることから始めなければなりません。そして、一度学習できれば、プログラムをバラバラにするような特殊なケースも教えることができると確信しています。

日本には、RPGとともにオープンソースにも取り組んでいる方が大勢いますよね。皆さんは、RPGプログラムのモダナイズは、RPGにプログラムの一部を残し、その他の機能をオープンなテクノロジーで実現することが最善の方法であることを理解されています。

RPGコードのこの部分が、サービス・コールをやっているとか、画面記述を書いているとかを理解できるように、私たちはモデルを訓練したいのです。最終的に、この部分をPHPのモジュールに変更すると良い、と、モデルが言うようになることが私のビジョンです。

もちろん、すぐには難しいかもしれません。ですが、道はあります。いつの日か、きっと実現するでしょう。


最終回は、今注目の VSCode および Code for i とオープン・テクノロジーへの取り組みについてのお話です。

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