(本記事は、iWorld編集部の K が、IBM i をご存じではない方々を意識して執筆したものです。iWorldをご活用くださっている皆様にとって釈迦に説法な内容も含まれている点、ご容赦ください)
2020年代中盤の2024年。ITのトピックの1つは「AIのOSへの統合」でしょう。マイクロソフトのCopilotが利用可能なパソコンや、GoogleのGeminiを利用できるAndroidスマートフォンが、家電量販店で「AI搭載」と呼称されているのを見かけたことがある方は多いのではないでしょうか。
GeminiやCopilotといった生成AIおよび生成AIを活用するチャットボットは、あくまでも「AI」の1つの形です。そして、GeminiやCopilotを対応するOS(オペレーティング・システム)に統合することは、OSとそのOSを搭載するデバイスの価値を高める効果もあるでしょう。(極めて個人的には、Webブラウザー[Internet Explorer]をWindowsに統合したことで独占禁止法訴訟が起きたような事態が、AIのOSへの統合で発生しないかを気にしています)
企業向けITインフラにおいてワンストップやオールインワン、アプライアンス製品が好まれるケースがあるように、OSについても様々なものが統合されていることが望ましいケースはあると思います。もちろん、統合環境はベンダー・ロックインにつながることから敬遠されがちであり、必要となるOSやミドルウェアをユーザー企業自身で選択することが主流でしょう。その一方で、クラウドが当たり前の現在、OSやミドルウェアを自由に選択できていても、利用しているクラウド・ベンダーからは離れられなくなり、結果としてベンダー・ロックインの状態に陥っている場合もあるのではないでしょうか?
ここまで思いをめぐらすと、様々なものが統合されたOSを利用することをベンダー・ロックインとして忌避する必然性はないのでは、と思ってしまいます。
世の中には、データベース、セキュリティー機能、プログラミング言語、仮想マシンといったテクノロジーを統合して、35年以上にわたり進化を続けている企業用OSがあります。
それは、IBMが提供している「IBM i」というOSです。IBM製の独自プロセッサーを搭載するサーバー用のOSなので、「知る人ぞ知る」という面があるのは否めません。
一般的に、クラウドやオンプレミスでマルチベンダー環境のシステムを構築している場合、トラブルが発生した際はベンダーごとに問題の有無を切り分けなくてはならず、平時であってもアプリケーションやデータベースの保守や運用管理に負荷がかかります。一方、IBM i では、問題がが起こった場合は単一ベンダーへの問い合わせで済み、必要な機能はOSに統合されているため運用管理や保守が容易です。
また、IBM i を稼働させる「IBM Powerサーバー(IBM製の独自プロセッサーを搭載)」が、障害に強くダウンタイムが少ないハードウェアであることも、容易な運用管理や保守の実現に寄与しています。
サーバー・ハードウェア、サーバーOSの信頼性に関する調査を毎年世界的に実施しているITICによると、IBM Powerサーバーの可用性(システムが停止することなく稼働し続ける能力)の評価は99.9999%以上とのこと(https://www.ibm.com/jp-ja/power の「メリット」より)。このIBM Powerサーバーの高い可用性も、IBM i の運用管理や保守が容易であることに寄与していると言えるでしょう。
とはいえ、良い点があっても接続性が乏しければ、統合OSのユーザー企業は孤立してしまいます。言うまでもなく現在の企業システムでは、相互接続性や相互運用性、そして、多様な企業との業務上の協業が重要となっているからです。
IBM i の場合は、Webシステムを外部から利用するために用いられるREST API(RESTful API)について、IBM i のOSそのものに組み込まれているデータベース(IBM Db2 for i)がREST接続機能を提供しています。
また、IBM i は、オープン・ソース・ソフトウェア(OSS)を筆頭とするオープンなテクノロジーを積極的にサポートしています。具体例として、PHPやNode.js、機械学習で用いられることが多いPythonなどが挙げられます。
そして、上述した内容によって、OSとしてのIBM i がモバイル・アプリケーションの構築機能をサポートせずとも、顧客接点となるフロントエンドへの接続を実現できるのです。(なお、IBM i に対応するモバイル・アプリケーションの開発ツールはISV[独立系ソフトウェア・ベンダー]から提供されています)
IBM i の原点はOS(当時の名称は「OS/400」)導入済の専用機だったIBM AS/400(1988年発表)です。そして、IBM AS/400は、企業ビジネスのためのアプリケーションを導入して稼働させる「コンピューター」であり、現在における「サーバー」ではありませんでした。
事実、日経コンピュータ2004年7月26日号に掲載されている「第9回顧客満足度調査」では、調査対象分野として「オフコン(オフィスコンピューター)」が存在しており、日本IBMが首位でした。2000年の時点で、OS/400を搭載するシステムは「IBM eServer iSeries」とブランド名称が変わり、「コンピューター」ではなく「サーバー」と位置づけられていたにも関わらず、です。
つまり、ビジネス・アプリケーションを稼働させる専用コンピューターの導入済みOSを起点に、OS組み込み済みのサーバー(ミッドレンジ・サーバーに位置づけられていました)に進化し、現在のIBM i に至るわけです。
IBM AS/400の時点では「統合OS」として扱われていなかったOS/400ですが、「Integration(統合)」を意味する「i」をシリーズ名称に冠するIBM eServer iSeriesの時点から「統合OS」に位置づけられたと解釈できます。
その後、IBM eServer iSeriesがIBM eServer i5(そしてIBM System i)へとブランド名称が変わったタイミングで、OS/400も「i5/OS」という名称に変わりました。そして、根幹となるアーキテクチャーを継続することで、アプリケーション資産を保護する互換性を維持しつつ、時代ごとに必要とされる機能をOSに組み込みながら、現在のIBM i へと至っているのです。
「AIのOSへの統合」が進む現在、統合OSとしてのIBM i ではデータベースのIBM Db2 for i にIBM Watsonの地理空間分析機能が組み込まれました。多くの方々がAIと聞いて想起するであろう生成AIではありませんが、ビジネスのために必要となるAI機能の適切な統合が行われているのです。
知る人ぞ知る統合OS「IBM i」。されど、国産メインフレームからのマイグレーション先としても評価される「IBM i」。もし、興味を持たれたら、IBM i の総合情報サイト『iWorld』に掲載されている以下の連載をご覧になってみてください。